Japan’s $1 Tn GX (Green Transformation) Policy

Does it Align with Science Based IPCC Recommendations and Who is Influencing It

November 2023

Executive Summary

日本のGX政策: COP21で採択されたパリ協定の合意を達成するため、日本政府はグリーントランスフォーメーション(GX)政策を導入した。GX政策は経済成長を促進しながら、化石燃料からクリーンエネルギー中心の社会への移行を目的としている。GXの実現に向けた今後10年間のロードマップなどが策定され、150兆円超の官民投資を行うことが想定されている。これに関する一連の政策がGX政策である。

科学的根拠に基づく政策 (SBP)との不整合: 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は世界の気温上昇を産業革命前より1.5℃上昇以下に抑えるというパリ協定の目標を達成するためのパスウェイに関するガイダンス(科学的根拠に基づく政策)を示している。本分析は、その科学的根拠に基づく政策と日本のGX政策には大きな乖離があることを明らかにした。日本の2030年および2050年の温室効果ガス(GHG)削減目標や洋上風力発電に関する政策など、GX政策の一部の分野は科学的根拠に基づく政策と部分的に整合している。しかし、その他の大部分は科学的根拠に基づく政策と整合していないよう見受けられる。さらに、GX政策のファイナンス計画とGHG削減成果の結びつきが不明確である。

カーボンプライシングと化石燃料政策: 本レポートでは、GX政策の気候変動に関するトップラインの目標(GHG削減目標など)、個別の政策(カーボンプライシングなど)、及び電力、鉄鋼、運輸・自動車セクターに関する政策を分析している。その結果、特にカーボンプライシングと化石燃料政策において、科学的根拠に基づく政策と矛盾していることが明らかになった。カーボンプライシング制度は導入時期が遅く、価格もIPCCが推奨する水準を満たすのが困難だと予想されるため、排出削減目標の達成を危険にさらす可能性がある。石炭火力発電の廃止期限を定めず、水素・アンモニア混焼発電を推進する政策は、IPCCが推奨する1.5℃のパスウェイと整合せず、世界の長期的な排出削減目標の達成にリスクをもたらす。さらに、GX政策が推進する「電動車」には、ハイブリッド車が含まれている。しかし、IPCCは、ハイブリッド車は「一時的な解決策」であり、代わりに低排出電力で動く電気自動車が優位な役割を果たさなければならないと述べており、GX政策は自動車分野においてもIPCCのガイダンスに反している。

重工業セクターによる影響力: InfluenceMapのシステムには、企業や業界団体が過去数年の間に行った、気候変動・エネルギー政策に対する政策関与についての数千に及ぶエビデンスが記録されている。この記録は、気候変動・エネルギー政策に対する産業界の影響力の傾向を示している。分析の結果、政策関与の圧倒的多数(GX政策に特化した約900個のエビデンスのうち81%)は、9つの業界団体と8つの企業という、ごく少数の団体から発信されていることがわかった。その中には、電力、鉄鋼、エネルギー、自動車セクターを代表する業界団体や企業が含まれている。その他の業界(金融、小売、建設、消費財、ヘルスケアなど)は合計で 日本経済と雇用の70%以上を占めている が、GX政策の細部については、その導入前から現在に至るまで、積極的な働きかけを行ってこなかった。科学的根拠に基づく政策と整合しない立場を取る企業からの積極的な政策関与が、現在のGX政策に影響を与えている可能性がある。

経団連による政策関与: 分析対象となった9つの業界団体の中で、特筆すべきは日本経済団体連合会(経団連)である。本レポートで分析した約900個の政策関与のエビデンスの15%を経団連が占めている。経団連は日本の「経済界の意見を取りまとめ(る)」存在であると主張している。しかし、GX政策のトップラインおよび分野別の様々な側面における経団連の立場は、科学的根拠に基づく政策と大きく乖離している。特に炭素税に反対し、石炭火力の長期利用につながるアンモニア混焼を支持する主張も行っている。経団連の現会長である住友化学の十倉雅和氏は、経団連の意見は現在のGX基本方針で「ほぼ全面採用された」と述べている。

気候変動政策に前向きに取り組む企業の声: 重工業セクターの声がGX政策の議論で優位に立っているように見受けられるが、気候変動対策に前向きな企業の声も高まっている。日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、リコー、武田薬品工業、イオンなどの日本企業に加え、アップル、イケア、アマゾンの日本法人など、様々な分野の企業246社が加盟する気候変動に関するアドボカシーグループである。気候変動イニシアチブ(JCI)はソニー、ソフトバンクなど多くの企業が参画する団体であり、再生可能エネルギー目標の強化など、野心的な気候変動政策を支持する政策関与を行っている。経団連の政策的立場とは異なる、気候変動政策に意欲的な様々な日本企業の声が存在することを 、JCLPやJCIが示している。日本の経済と雇用の圧倒的多数を代表する、JCLPやJCIのような団体やその会員企業が、気候変動対策に前向きな政策関与を拡大していることは、経団連が日本の経済界の意見を取りまとめているという主張が妥当でないことを示唆している。

このレポートが、(1)GXが科学的根拠に基づく政策に合致していないこと、(2)そのGXに大きな影響を与えているのが経団連であり、しかもその傘下企業の総意ではなく、一部のエネルギー集約企業の利害が強く反映されていること、この2点を明らかにしたことの意義は大きい。気候変動政策を前進させるように見えて、実はエネルギー集約産業の利害を守ろうとしているのがGX推進法の本質である。カーボンプライシングが不十分に終わり、石炭火力発電が延命される理由も、まさにここにある。我々はGX推進法の問題点を認識し、それを乗り越えて前進を図らねばならない。

諸富徹 京都大学大学院経済学研究科 教授 / 環境省中央環境審議会臨時委員など、多くの政府委員会の委員を務める

InfluenceMapについて

気候リスクのデータプロバイダーであるInfluenceMapは、GHG多排出企業に気候変動の対応を加速させるよう働きかけるクライメート・アクション100+(CA100+)等を通して世界の投資家に情報提供を行っている。InfluenceMapが行う気候変動やエネルギーに関するデータに基づいた分析は、投資家だけでなく、企業、グローバルメディア等に幅広く活用されている。InfluenceMapは2015年に創立され、英国ロンドンに本社を構え、東京、ソウル、ニューヨーク、キャンベラに拠点を置いている。

2024年11月13日22時時点の更新: 付録Ⅱのp.26の図の誤植を以下のように修正しました。 該当箇:日本のエネルギーミックスの2030年LNG目標 誤「41%」→正「20%」 この訂正は、本報告書の結論には関係なく、影響もありません。この更新されたランディング ページに含まれるグラフとレポート ファイルを使用してください。

GX政策と科学的根拠に基づく政策との整合性

GX政策への関与を最も積極的に行う業界団体、企業